谷川俊太郎さんから劉霞さんへ、返歌が(田島安江)

谷川俊太郎さんに

劉暁波詩集『独り大海原に向かって』と

劉霞詩集『毒薬』をお送りした。

『毒薬』に「無題―谷川俊太郎にならって―」

という作品があったからだ。

 

そうしたら、思いがけなく、谷川さんから

「劉霞に」という素晴らしい詩が届いた。

この詩集を読んですぐ書いてくださったのだ。

劉霞さんがこの詩を読まれたら、きっと涙を流して喜ばれるだろう。

いつか、そんな日が来ることを心から願っている。

 

春霞を眺めながら、しみじみと、二人の詩を読んだ。

 

「無題―谷川俊太郎にならって―」(劉霞)

うんざり
 
もううんざり 見えるだけで歩けない道
もううんざり 汚れた青空
もううんざり 涙を流すこと
もううんざり いわゆるちり一つない生活
もううんざり 偽りのディスクール
もううんざり 植物が萎むのも
もううんざり 眠れぬ夜も
もううんざり 空っぽのレターボックスも
もううんざり すべての非難も
もううんざり 言葉の失われた歳月も
もううんざり 鳥かごも
もううんざり 私の愛も
もううんざり 身についた「緋文字」も もう
 
もううんざり

            (2016年9月)

 

 

「劉霞に」(谷川俊太郎

 
言葉で慰めることも
励ますこともできないから
私は君を音楽でくるんでやりたい
どこからか飛んで来た小鳥の君は
大笑いしながら怒りを囀り
大泣きしながら世界に酔って
自分にひそむ美辞麗句を嘲笑い
見も知らぬ私の「無題」に
君の「無題」で返信してくれた
そうさ詩には題名なんてなくていい
生きることがいつもどこでも詩の題名
一度も行ったことのないところ
これからも行くことはないところ
国でもなければ社会でもない
そんな何処かがいつまでも懐かしい
茶碗や箸や布団や下着
言い訳やら噓やら決まり文句
そんなものにも詩は泡立っている
君のまだ死なない場所と
私のまだ死んでいない場所は
沈黙の音楽に満ちて
同じ一つの宇宙の中にある
              (2018年3月)

「新鋭短歌シリーズ」第4期刊行スタート記念フェアがはじまります!!

「新鋭短歌シリーズ」第4期刊行スタート記念フェアがはじまります!!

『花は泡、そこにいたって会いたいよ』(初谷むい)、『冒険者たち』(ユキノ進)、『ちるとしふと』(千原こはぎ)がいよいよ刊行になります。

「新鋭短歌シリーズ」第4期の第一弾刊行スタートを記念して、大学の書籍生協にて「新入生のあなたに届けたい短歌があります」フェアを開催します。

新鋭短歌シリーズの著者の方たちに新入生に向けた一首を作っていただきました。また、メッセージも寄せていただきました。

ぜひフェアを御覧ください。気になった歌集があれば手に取ってみてください。新たな短歌との出会いになればうれしいです。

追記(2018年7月23日)

日本現代詩歌文学館官報(詩歌の森)で、栗木京子さんがフェアについて書いてくださいました!

「大学の生協の書籍部が会場になっていることに注目した。新学期になって講義の教科書や参考書が平積みにされている書籍部に、歌集がずらりと掲示されている。今まで短歌に何の関心ももっていなかった学生たちがフェアにふと足をとめ、その中の何冊かを手に取ってくれれば素敵なことである。〔……〕フェアは貴重なエスコート役になっている。ここから短歌の輪が広がってゆくことを願いたい」

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◆開催店舗

東京大学生協本郷書籍部

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京都大学生協ショップルネ

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早稲田大学生協戸山店

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北海道大学生協クラーク店

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ジュンク堂書店滋賀草津

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第一回笹井宏之賞 募集要項

第一回笹井宏之賞 募集要項

<選考委員> 大森静佳、染野太朗、永井祐、野口あや子、文月悠光

<募集作品> 未発表短歌50首 応募作品は1人1篇(50首)まで。受賞作品の雑誌掲載権は書肆侃侃房に帰属します。

以下の事項も提出してください。

作品表題・氏名・筆名・生年月日・年齢・性別・郵便番号・住所・電話番号・メールアドレス

<締切> 2018年10月15日(月)24時

<選考方法> 一次選考では、4選考委員(大森、染野、永井、野口)全員が全作品を読み、候補作品を30篇前後に絞り込みます。二次選考では、全選考委員(大森、染野、永井、野口、文月)が選考会によって授賞作品を決定します。一次選考、二次選考ともに作品表題と短歌作品のみをもとに選考を行います。

<笹井宏之賞> 賞状・副賞として書肆侃侃房から歌集出版(笹井宏之賞を受賞した場合、歌集出版権は書肆侃侃房に帰属します)

笹井宏之賞とはべつに各選考委員による個人賞も授与します。

<発表> 短歌ムック『ねむらない樹』第2号(2019年1月末発売予定)誌上

<応募方法> 以下の応募フォームよりご投稿ください。


朝日新聞


毎日新聞


週刊読書人

 

中日新聞

 

新文化

https://www.shinbunka.co.jp/news2018/05/180521-03.htm

『花は泡、そこにいたって会いたいよ』&『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』刊行記念のイベントを開催します!!

書肆侃侃房 短歌イベント in 札幌
 
◆『花は泡、そこにいたって会いたいよ』刊行記念 初谷むい×山田航トーク&サイン会
出演:初谷むい(歌人、『花は泡、そこにいたって会いたいよ』著者)、山田航(歌人、『花は泡、そこにいたって会いたいよ』監修者)
日時:4月25日(水)18時30分~20時
場所:書肆吉成丸ヨ池内GATEギャラリー(北海道札幌市中央区南1条西2丁目18 IKEUCHI GATE 6F)
※予約不要、参加費無料
【初谷むい】 1996年生まれ、北海道在住。北海道大学短歌会、短歌同人誌「ぬばたま」所属。

トーク終了後にサイン会を行います。
『 花は泡、そこにいたって会いたいよ』 初谷むい著 山田航監修 書肆侃侃房刊 1700円+税

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『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』刊行記念 雪舟えま朗読&サイン会
出演:雪舟えま(歌人・小説家、『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』著者)
日時:4月26日(木)19時~20時
場所:がたんごとん(北海道札幌市中央区南1条西15丁目1−319)
※予約不要、参加費無料
雪舟えま】1974年北海道札幌市生まれ。歌集に『たんぽるぽる』、『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』、小説に『タラチネ・ドリーム・マイン』、『バージンパンケーキ国分寺』、『プラトニック・プラネッツ』、『幸せになりやがれ』、『恋シタイヨウ系』、『凍土二人行黒スープ付き』、『パラダイスィー8』、アルバムに『ホ・スリリングサーティー』などがある。
 
※朗読終了後にサイン会を行います。
『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』 雪舟えま著 書肆侃侃房刊 2000円+税

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現在、二つの書店では書肆侃侃房の歌集フェアが開催中です!!

書肆吉成 丸ヨ池内GATE6F店

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がたんごとん

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大崎清夏×伊波真人「ことばのフライト、ことばの住みか」朗読とトーク&新刊サイン会

大崎清夏×伊波真人

「ことばのフライト、ことばの住みか」

朗読とトーク&新刊サイン会

2月に詩集『新しい住みか』を刊行したばかりの詩人・大崎清夏と、昨年12月に第一歌集『ナイトフライト』を刊行し、作詞家としての一面ももつ歌人・伊波真人による、朗読とトーク。ことばを手繰る二人が、現代詩と短歌という枠組をこえて互いの作品を読み解き、音楽や映画をはじめとしたさまざまな表現とことばの関わりを語ります。

◆日程:2018年5月3日(木・祝) 16:00~17:30

◆場所:二子玉川蔦屋家電2階ラウンジ

◆定員:50名

◆参加費:1000円

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劉暁波・劉霞という二人の詩人につながる細い糸(田島安江)

 劉暁波の第二詩集で最後の詩集『独り大海原に向かって』と、劉霞詩集『毒薬』がやっと出版にこぎつけた。劉暁波が亡くなったのが昨年の7月13日、あの衝撃と悲しみが伝わってからまだ一年にもならないのに、人々の記憶からどんどん忘れられていくような気がしてならない。一人残された劉霞の消息がわからない。この二冊の詩集の翻訳を一緒にやった劉燕子さんも何度も電話をしたり、友人に聞いたりするけれど、何もわからないという。

 一人の人間の消息が、ある日を境に忽然と途絶えるということがあっていいのだろうか。

 この二冊の訳詩集は、劉暁波・劉霞という二人の詩人との、ほんのかすかにつながった糸のようなものだと思う。詩の言葉を信じたいし、詩の持つ力が広がってほしい、と思う。

 

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『独り大海原に向かって』劉暁波

 詩集『牢屋の鼠』を出版したのが二〇一四年二月十五日。そのとき、〇八憲章の起草者としての罪に問われ、十一年の刑を言い渡されてから五年が過ぎていた。私は漠然と、彼が出獄できさえすればいつか、出会えるチャンスがあるかもしれないと淡い期待を抱いていた。詩人劉暁波に会ってみたかった。

 ところが、昨年(二〇一七)六月二十六日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。劉暁波が末期がん治療のため、瀋陽の病院に移されたとのこと、そして、世界中の人々が注視する中、七月十三日、ついに帰らぬ人となった。その知らせを私は暗澹とした思いで受け止めた。

 劉暁波自身が生前、言論によって罪に問われる最後の一人になることを望んでいたといわれたが、残念ながら、世界はまだ彼の望み通りになっていない。むしろ、世界はもっと暗黒へと近づいているのではないだろうか。彼亡きいま、世界を覆う暗雲はますますその度合いを深めている。まるで太陽の光が遮られ、暗黒の世界が出現する日蝕のように。

 今ではもう、何者からも自由になった劉暁波。彼はどこまでも自由だ。彼の言葉のすべてが、世界中の人びとのものなのだ、と強く思った。劉暁波は、一匹の魚となり、一羽の鳥となって、自由に空を飛び、大海原を泳いでいける。きっと夜ごと、劉霞のもとを訪れているに違いない。もはや誰も、彼らを引き離すことはできないのだから。

          『独り大海原に向かって』「劉暁波の遺書」(本文)より

 

十七歳へ (抜粋) 劉暁波

ぼくは生きていて
過不足ない悪評もあびせられる
ぼくには勇気も資格もないが
花を一束と詩を一篇ささげるために
十七歳のほほえみの前に行く
ぼくにはわかっている
十七歳は何の怨みも抱いてないと

十七歳は呼吸が停止したとき
奇跡的に絶望していなかった
銃弾は山やま脈なみを貫通し
狂ったように海水を痙攣させた
すべての花が、ただ
一色に染まったときも
十七歳は絶望しなかった
絶望するはずがないじゃないか
君は未完成の愛を
白髪の母に託したままで

年齢を超越し
死をも超越した
十七歳は
今や永遠だ

 

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『毒薬』劉霞

 劉霞の詩は、劉暁波の詩に共鳴し、『牢屋の鼠』の詩群が耳許に響きはじめた。劉霞の詩は劉暁波にとって間違いなく毒薬であった。しかも、じんわりと効いてくる毒薬。劉暁波の詩の根幹にあるものは「海は宇宙における最大の墓場」であったし、そこには常に死の概念が横たわっている。ということは、劉暁波の詩もまた、劉霞にとっては毒薬だということになる。詩を交換するという行為は、二人の間で交わされた「死への儀式」でもあったのだ。劉暁波亡き今、彼女を襲う空虚と苦痛の息詰まる「かなしみ」を世界中の誰一人として、癒やせはしない。

 時に伝えられる劉霞の状況は深刻さを増していった。軟禁状態に置かれているということはどんなことなのか。劉暁波の詩によると、世界中のマスコミの取材の禁止から始まり、訪ねてくる人のチェック、電話の盗聴と遮断、メールも消され、孤立状態に陥らせる。そして、何よりも、劉暁波は自らの死によって、劉霞の解放を望んだはずなのに、それをこそ、何より望んだはずなのに、それもかなえられない。なんという理不尽だろう。私は、劉霞の魂が少しずつ死んでいくのではないかと恐れる。あの「醜い子供」の人形のように。少しずつ毒薬が効いてきたりしていないか、と。

                『毒薬』「やっと劉霞詩集が」(本文)より

断片  劉霞

私はいつも見つめている
読み終えたばかりの死の光を
ぬくもりを感じるのだけれど
離れなければならないから
さあ、光のあるところに行きましょう

ずっと気丈であり続けたけれど
灰燼になってしまった
一本の木は
一閃の雷光で打ち砕かれる
何も考えないうちに

未来は私にとって
閉じられた窓
部屋の夜はいつまでも明けなくて
悪夢は消えない

さあ、光のあるところに行きましょう

現代歌人シリーズ20点突破記念フェアを開催します!!

『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』(雪舟えま)刊行記念

「現代歌人シリーズ」20点突破記念フェア

『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』(雪舟えま)刊行で、「現代歌人シリーズ」は20点を突破します。これを記念したフェアを開催します。お近くの方はぜひご覧になってください!!

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梅田蔦屋書店

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※梅田蔦屋書店では、限定ペーパー付きの『はーはー姫』が販売されます。


 

 

戸田書店掛川西郷店

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ときわ書房志津ステーション店

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