医療現場の「前線」から(田島安江)

歌人の犬養楓さんから、問い合わせをいただいたのは昨年の12月7日、まさに新型コロナウイルス禍の第3波が猛威をふるい始めた頃だった。救急専門医として「今まさに第3波で悲鳴を上げる医療機関の内なる声や現実を集めた最新の短歌連作を紙の歌集として出版できないか」という依頼だった。「メディアでは語られない医療従事者の声を、直接的には言いにくいその思いを、短歌という形式に載せて、世間に届けたいという気持ちと、また第1波、第2波と幾度となく困難に直面してきた医療従事者の忘れてはいけない過酷な体験(診療だけでなく、世間の風当たりなども含めて)の記録として、なんとしても社会に届けたいと思っています」という言葉に心を打たれすぐに、出版しましょうと返事した。年末年始も医療現場にいながら、何度も何度も推敲を重ね、「もうこれ以上いい歌は出て来ません」というところまで、頑張ってくれた。そして、非常事態宣言が解かれる予定だった2021年2月7日を発行日とした。「前線」というタイトルは過去にも歌集はあるが、この歌集の前線とは意味が違う。まさに医療の前線にいるのだと実感できる歌集である。「言葉」の持つ力を信じたい、多くの人にとって、応援歌になりますよう、そんな思いを込めた。

 

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