ひとひらの雪(田島安江)

はじまりのことばがゆびのあいだからひとひらの雪のように落ちた
                    笹井宏之歌集『てんとろり』より

寒い日が続いている。1月24日は、笹井宏之さんの命日だった。このちらつく雪を眺めながら、宏之さんのお母様、筒井和子さんとしみじみと話をした。裏山も真っ白になっているそうだ。ご家族にとって、ぽっかりと空いてしまった穴はどんなにしても埋められない。だから、そっと肩を寄せ合って生きていらっしゃる。裏山とその上に広がる空は宏之さんの歌の溢れる泉のようだった。そのことを、筒井家を訪れるたびに感じてきた。
「みなさんが宏之のことを忘れずに、あの子の歌を読み続けていただければ、それだけでうれしい」和子さんはいつもそうおっしゃる。

来年は笹井宏之さんが亡くなって10年になる。彼の歌を読み続けていただくために、二つの企画がスタートする。
短歌ムック「ねむらない樹」がこの夏から、そして、若い歌人のための「笹井宏之賞」を設ける。「笹井宏之へのオマージュ」である。どんな流れになるか、たのしみだ。

たくさんの「はじまりのことば」を期待したい。